2026/10/08 19:15

PERFECT DAYS ― 毎日を繰り返すということ。


先日、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』を観ました。

役所広司さん演じる主人公・平山は、東京・渋谷で公共トイレの清掃員として働いています。



朝、目を覚ます。

身支度をする。

腕時計を身につける。

車に乗り込み、仕事へ向かう。

仕事が終われば銭湯へ行き、いつもの食堂で食事をし、本を読み、眠る。

一見すると、毎日が同じことの繰り返しの様な毎日を過ごす平山。




けれど、この映画を観ていると、少しずつ「同じ毎日」という言葉の意味が変わってきます。

同じように見える一日でも、空の色が違う。

木漏れ日の揺れ方が違う。

誰かとの会話が少し違う。

偶然出会う人が違う。

そして、そこで感じることも少しずつ違う。




『PERFECT DAYS』は、そんな何気ない日常の中にある、小さな変化や小さな幸せを、とても静かに見せてくれる映画でした。



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時計を置く。


個人的にとても印象に残ったシーンがあります。

平山が仕事を終えて家に帰り、玄関のドアを開ける。

そして、家に入ると、横にある棚へ腕時計を外して置く。

その隣に鍵を置き、そしてカメラ、財布を置く。



時計。

鍵。

カメラと財布。




毎日、同じ場所へ、同じように置かれていく道具たち。

派手な演出があるわけではありません。

けれど、その一つ一つの動作を見ていると、平山がどんなふうに毎日を生きているのかが伝わってきます。




そして翌朝。

目を覚ました平山は、また時計を身につける。

その時計とともに、一日が始まります。

この映画では、腕時計が時間を知るためだけの道具には見えません。

平山の一日の始まりと終わりを静かに区切るもの。

毎日の生活の中に自然に存在しているもの。

そんなふうにも見えました。



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同じ道を走る。音楽を聴く。





朝、平山はいつものように車を走らせます。

住宅街を抜け、大通りへ出る。

その先には東京スカイツリーが見える。

そこで、カセットテープをデッキに押し込む。

そして、音楽が流れ始める。

このシーンが、とても好きです。





現代の東京を走る車の中で流れるのは、カセットテープに録音された少し古い音楽です。

そこには、今の時代とは少し違う時間が流れているようでした。



『PERFECT DAYS』では、平山が聴く音楽以外の音楽は基本的に流れません。

彼が昔から大切にしているカセットテープから、その日の一曲が流れてくる。





その選曲も、この映画の大きな魅力のひとつだと思います。

流れる曲は、The Animalsの「The House of the Rising Sun」、The Velvet Undergroundの「Pale Blue Eyes」、Lou Reedの「Perfect Day」、The Kinksの「Sunny Afternoon」など。

ほかにも日本のフォークシンガー、かねのぶさちこの「青い魚(Aoi Sakana)」が使われています。



特にLou Reedの「Perfect Day」。

映画のタイトルそのものとも重なるこの曲が、平山の日常に流れてきたときは印象的でした。



大きな出来事が起こるわけではない。

ただ、いつもの道を走り、いつもの仕事へ向かう。

それなのに、その一日がなぜか「Perfect Day」に見えてくる。

そんな不思議な感覚があります。



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「同じ」だからこそ見えてくるもの。



平山は、毎日同じような生活をしています。

けれど、それは決して退屈な生活として描かれていませんでした。

むしろ、毎日を丁寧に繰り返すことでしか見つけられないものがあるように感じました。




木々の間から差し込む光や、仕事の合間に見上げる空。

古い本を読んだり銭湯のに浸かったり。

カセットテープから流れる音楽。

そして、偶然の出会い。



PER FECT DAYSという映画は

「今日は何が起こるんだろう」と期待する映画ではありません。

むしろ、

「今日は何に気づくんだろう」と思わせてくれる映画と言えるように思います。

そこが、この作品の面白さなのかもしれません。





自分自身に置き換えても、毎日の生活があります。

仕事や食事、身支度など。

平山と変わりありません。



毎日の生活の中に、気づくべき幸せがあるのではないか。

そう思わせてくれる映画でした。




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時計も、毎日を一緒に過ごすもの。




時計というものも、少し似ている気がします。

時間を確認するだけなら、スマートフォンでも十分です。

それでも腕時計を身につける。



朝、手に取って腕につける。

一日を過ごし、帰宅して外す。



毎日同じように見えるその動作の中に、自分だけの時間が積み重なっていく。

時計は、時間そのものを作るわけではありません。



ただ、そこにいて、時間が過ぎていくことを教えてくれる。

傷が増えたり、革ベルトの表情が変わったり、少しずつ自分のものになっていったり。

そう考えると、平山が毎日使っている腕時計も、彼の生活の一部なのだと思います。



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PERFECT DAYS

第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品
役所広司さんが最優秀男優賞を受賞。

作品としてもエキュメニカル審査員賞を受賞しました。

第96回アカデミー賞では国際長編映画賞の日本代表作品に選出。

日本アカデミー賞では、ヴィム・ヴェンダース監督が優秀監督賞、役所広司さんが優秀主演男優賞を受賞。

アジア・パシフィック・スクリーン・アワードでは作品賞。
アジアン・フィルム・アワードでは役所広司さんが最優秀男優賞を受賞。


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PERFECT DAYSは世界的に評価された映画です。

でも、この映画の魅力は、こうした賞の数だけでは語れないと思います。



派手なストーリーがあるわけでもない。

人生が大きく変わるような出来事が続くわけでもない。

ただ、一人の男が毎日を生きている。

その「毎日」を、これほど印象的で美しく描いた作品は、観たことがありません。





観ているうちに、いつしか自分自身と平山と重ねていました。

それほど変わりのない毎日の中で、ほんの小さな幸せを見つける。

それだけで十分に「Perfect Day」なのかもしれません。